3. エジプト神話の女神
ナイル川流域で栄えたエジプト神話には、母性と魔術を象徴するイシス、愛と音楽を司るハトホル、守護と戦いの女神バステトなど、多彩な女神が登場します。古代エジプト人は死後の世界を強く意識していたため、冥界や真理を司る女神も重要視されました。ピラミッドや神殿に刻まれた女神像は、信仰の深さを今に伝えています。
- イシス (Isis, Ἶσις / )
母性と魔術を象徴する大女神。夫オシリスを復活させ、息子ホルスを育てた物語で知られます。王権の守護者としても崇拝され、後世の女神信仰にも強い影響を与えました。 - ハトホル (Hathor, Ḥwt-Ḥr)
愛・音楽・舞踏の女神で、しばしば雌牛の姿や角を持つ姿で描かれます。喜びや母性を象徴し、エジプト全土で広く信仰されました。 - バステト (Bastet, Bast, )
猫の女神で、家庭と出産の守護者。温和な面と戦闘的な側面を持ち、疫病や災厄から人々を守る存在でした。 - ネフティス (Nephthys, Nebet-Het)
死と夜を象徴する女神で、イシスの姉妹。死者を保護し、冥界での安らぎを与える存在とされました。 - マアト (Ma’at, Mꜣꜥt)
真理と秩序を司る女神。裁判や死後の審判で、心臓を羽と比べる「マアトの秤」によって正義を測る存在として知られています。 - セクメト (Sekhmet, Sḫmt)
獅子の頭を持つ戦いの女神で、太陽神ラーの怒りを具現化した存在。疫病をもたらす一方、医療と治癒の力も持つとされました。 - ワジェト (Wadjet, Wꜣḏyt)
コブラの女神で、下エジプトの守護神。王の冠に刻まれ、支配と権威を象徴しました。 - ネイト (Neith, Nt)
戦と狩猟の女神で、織物の守護者でもあります。宇宙創造に関わる原初の神としても崇敬されました。 - タウエレト (Taweret, Tꜣ-wrt)
カバの姿をした出産の女神。妊婦や母子を守る存在として家庭で広く祈られました。 - メレトセゲル (Meretseger, Mrtsgr)
「沈黙を愛する者」と呼ばれ、王家の谷を守護するコブラの女神。墓を冒す者には厳罰を与えると信じられました。
4. 北欧神話の女神
北欧神話には、愛と戦の両面を持つフレイヤや、予知と家庭を司るフリッグ、冥界を支配するヘルなど、独特の女神が存在します。厳しい自然環境で生きた人々にとって、女神は豊穣や生命力の象徴であると同時に、戦いや死と結びついた存在でもありました。ヴァイキング文化とともに広まった北欧の女神たちは、現在のファンタジー作品にも多大な影響を与えています。
- フレイヤ (Freyja, Freyja)
愛と美、そして戦と死を司る女神。戦場で亡くなった戦士の半分を自らの館フォルクヴァングに迎え入れるとされます。豊穣と魔術にも結びつく多面的な存在です。 - フリッグ (Frigg, Frigg)
オーディンの妻で、結婚と家庭の守護女神。未来を予知する力を持ちますが、その知識を口にしない慎み深い存在とされました。 - イドゥン (Iðunn, Iðunn)
若さを保つ「黄金の林檎」を守る女神。神々が永遠に力を失わないために不可欠な存在であり、彼女が誘拐される神話は有名です。 - シヴ (Sif, Sif)
豊穣を象徴する女神で、雷神トールの妻。黄金の髪を持ち、農耕と大地の豊かさと深く結びついています。 - ヘル (Hel, Hel)
冥界を支配する女神。巨人ロキの娘で、死者の魂をヘルヘイムへ導き、死後の安息の場を与える存在です。 - スカジ (Skaði, Skaði)
冬と狩猟を司る女神で、山岳地帯に住む巨人族の出身。スキーや弓の名手としても伝えられています。 - ノルン (Norns, Urðr, Verðandi, Skuld)
運命を紡ぐ三女神。過去・現在・未来を象徴し、人間や神々の寿命や運命を決定づける存在です。 - ゲルド (Gerðr, Gerðr)
巨人族の娘で、美しさゆえに豊穣神フレイの妻となった女神。自然の豊かさと結びついています。 - シグルーン (Sigrún, Sigrún)
ワルキューレの一人で、戦死者を選びヴァルハラへ導く役割を担う。愛と戦いの物語に深く関わります。 - エイル (Eir, Eir)
医術に優れた女神。病を癒す力を持ち、医者や治療者の守護者とされました。
5. ケルト神話の女神
ケルト神話の女神は、自然や戦い、詩や芸術に深く関わっています。ブリギッドは詩や医療を守護し、モリガンは戦場で死と勝利をもたらす存在として恐れられました。大地や川と結びついた母なる女神ダヌは、部族全体の祖神として崇拝されています。ケルトの女神たちは自然信仰と密接に結びついており、ヨーロッパの伝承や民間信仰にも影響を残しました。
- ブリギッド (Brigid, Bríde)
詩・医術・鍛冶を司る多才な女神。春の到来を祝う祭り「イモルク」と深く結びつき、後に聖ブリギッドとしてキリスト教にも影響を与えました。 - モリガン (Morrígan, Mórrígan)
戦と死を象徴する女神。カラスに姿を変え戦場に現れるとされ、勝利と敗北の行方を決定づける存在として恐れられました。 - ダヌ (Danu, Anu)
大地と母性を象徴する祖母神。ケルトの神族「ダーナ神族(Tuatha Dé Danann)」の名は彼女に由来し、豊穣と生命の源とされます。 - エポナ (Epona, Epōna)
馬と豊穣を守護する女神。馬を愛する人々から特に崇拝され、ローマ帝国にも信仰が広がりました。 - メイヴ (Medb, Medhbh)
コノートの女王で、豊穣と権力の象徴。『アルスター物語群』に登場し、戦と支配を象徴する存在として知られます。 - アリアンロッド (Arianrhod, Aranrhod)
月と星を象徴する女神。魔術や運命に関わり、ウェールズ神話『マビノギオン』に登場します。 - マッハ (Macha, Macha)
戦と豊穣を司る女神。スピードと競走に結びつき、馬と深い関わりを持つ存在です。 - ボアーン (Boann, Bóinn)
ボイン川の女神。水と豊穣を象徴し、神聖な川に命を吹き込みました。 - クロウィス (Clíodhna, Clíona)
美と魅了の女神で、アイルランドの海や妖精伝承とも関わります。愛の力を象徴する存在として語り継がれました。 - ネマイン (Nemain, Nemhain)
戦と混乱をもたらす女神で、戦場に恐怖を広める存在。モリガンとともに戦の運命を左右しました。
コメント